仁徳天皇陵を世界遺産に?

 報道によると、仁天皇百舌鳥耳原中陵などを含む百舌鳥「古墳」群と應天皇惠我藻伏崗陵などを含む古市「古墳」群を、ユネスコ世界文化遺産に推薦するための「暫定一覧表」に記載することが文化庁によって決定されたという。

 申すまでもなく陵墓は、皇室の御祖先の鎮まります霊地であり、現に皇室祭祀がおこなわれている聖域であって、単なる遺跡や遺産などではない。故に宮内庁治定の陵墓は文化庁による「史跡」などの文化財保護体系に組み込まれることが無いのが原則である(畝傍陵墓参考地・藤井寺陵墓参考地・仁天皇百舌鳥耳原中陵飛地へ号・應天皇惠我藻伏崗陵飛地ほ号については、陵墓としての兆域が「古墳」の一部にしか及んでいないという治定の不徹底のため、陵墓兆域部分も含めて史跡指定されるという失態を犯しているが)。

 ユネスコ世界文化遺産には、我が国の社寺やギリシャのアトス山のように伝統的な信仰を固く守っている聖地然としたところも登録されているから、世界遺産登録が直ちに聖地や祭祀の場であることの否定に繋がるものではないだろう。しかし、大阪府が文化庁に提出した世界遺産登録提案書を見たところ、両「古墳」群の世界遺産登録を目指す主体にあっては、陵墓を皇室の聖域として尊重する視点が全く存在しておらず、むしろ陵墓と皇室の関わりを出来る限り無視しようという意図が明白であると言わざるを得ない。

 そうした態度が最も顕著に見られるのが、陵墓の呼称である。「百舌鳥耳原中陵」や「惠我藻伏崗陵」といった正式な陵号を用いる例が皆無なのは勿論のこと、仁徳天皇陵のことは「仁徳陵古墳(大山古墳)」、応神天皇陵なら「応神陵古墳(誉田御廟山古墳)」といった「古墳」呼ばわりの表記が徹底されており、「天皇陵」という言葉すら一言も見られない。そこには、「これらの陵墓は宮内庁の言うような“天皇陵”ではなく、あくまでも“古墳”なのだ。それが世界に通用する普遍的価値なのだ」という強い示唆が読み取れるのである。

 このような態度には大いに見覚えがある。

 長年にわたり宮内庁の陵墓治定や陵墓管理を、「学問の進展を阻害している」と非難し続け、“天皇陵古墳”なる術語をひねり出して陵墓の「古墳」視を推進してきた考古学者や古代史学者、陵墓を、「“天皇制”国家を視覚化するために近代に捏造された装置」であると断じてきた一部の近代史学者、すなわち陵墓が皇室の聖域であることを根本から否定する主張をしてきた者たちの態度と同じではないか。

 陵墓を、いま推進されているような形で世界遺産に登録することは、皇室の聖域を蹂躙し、皇室祭祀を否定し、真摯な御陵参拝者を嘲弄することそのものである。いやむしろ、それが真の目的であって、「世界遺産」はその道具に過ぎないのではないのか。

 憶測で書いているのではない。

 上記「一部の近代史学者」のひとり、高木博志の著書に『近代天皇制と古都』(岩波書店・平成18年)がある。「京都や奈良は、“近代天皇制”の原郷=「古都」として創出された云々」という、流行りの「創られた伝統」モノの本であるが、その第七章は、ずばり「『仁徳天皇陵』を世界遺産に!」と題されている。その237ページにこうある。

 ギゼーのピラミッドが世界遺産で、どうして堺の「仁徳天皇陵」(大仙陵)は世界遺産ではないのか? 陵墓公開運動で培われた民主主義の理念を継承し、世界遺産保護の視座に立つ時、外圧には誠実な姿勢の日本政府に対して、「『仁徳天皇陵』を世界遺産に!」のスローガンも道具として有効ではないか。

 やはり世界遺産は、外圧を呼び込むための道具なのだそうである。

 百舌鳥・古市「古墳」群を、世界遺産候補としてユネスコに推薦する「暫定一覧表」に実際に記載するまでには、陵墓の扱いについて文化庁と宮内庁との間で協議が行われるそうである。その協議の場で宮内庁は何を主張するのか。

 陵墓が、いま推進されているような形で世界遺産に登録されることは、宮内庁の陵墓管理行政が否定されることであり、とりも直さず皇室の聖域としての陵墓の本義が否定されることである。

 宮内庁は、皇室の聖域を蹂躙し、皇室祭祀を否定し、真摯な御陵参拝者を嘲弄する者たちの主張に与するのか。その軍門に降るのか。

 せめて協議の場で、宮内庁治定の陵墓については「○○古墳」という呼称を一切用いず、「百舌鳥耳原中陵」や「惠我藻伏崗陵」といった正式な陵号で表記することを「暫定一覧表」記載の条件としてみてはどうか。それを受け入れるか否かで、文化庁側の陵墓に対する心底を推し量ることも出来るであろう。

 それすら出来ずにこのまま「暫定一覧表」記載を唯々諾々と追認するなら、現宮内庁幹部各位は、宮内省諸陵寮以来の陵墓管理行政の歴史的大転換、いや、歴史的大敗北を演じた人物として、永くその名を語り継がれることであろう。

旧皇族が語る天皇の日本史
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